大相撲界がいま、一人の「新弟子」の動向に沸いています。その名は、旭富士 英毅(あさひふじ ひでき)。本名をバトツェツェゲ・オチルサイハンというモンゴル出身の23歳です。
2026年初場所でのデビュー以来、土俵に上がるたびに伝説を塗り替えている彼の、稽古場での凄まじいエピソードと、角界が寄せる巨大な期待の全貌に迫ります。
1. 五輪戦士の血筋と、先代師匠が惚れ込んだ「本物の強さ」
オチルサイハンの身体能力は、まさにサラブレッドのそれです。叔母はレスリングのモンゴル代表として、2021年東京五輪を含む3大会連続でオリンピックに出場した英雄、ブルマー・オチルバトさんです。
彼自身もボクシング経験を経て来日し、神奈川・旭丘高校時代には世界ジュニア選手権で3位に入賞しました。しかし、国内のアマタイトル実績はありません。それでも先代師匠(元横綱・旭富士の宮城野親方)が自らスカウトしたのは、実績以上に「稽古場で見せる地力の凄まじさ」に惚れ込んだからです。親方は「タイトルがなくても、相撲部屋で稽古を積めば強くなることを彼に証明してほしい」と、その才能に賭けたのです。
2. デビューを拒まれた「空白の4年半」が怪物を育てた

2021年春に門を叩きながら、正式な初土俵まで4年半を要した理由は、日本相撲協会の「外国出身力士は1部屋1人」という規定でした。当時、部屋には横綱・照ノ富士がいたため、彼の引退を待つ必要があったのです。
この「研修生」という過酷な待機期間、彼は腐ることなく牙を研ぎ続けました。当時の横綱・照ノ富士の背中を見ながら、伯桜鵬ら6人もの関取衆と毎日稽古を重ねるという、新弟子としては有り得ないほど贅沢で厳しい環境が、彼を「怪物」へと変貌させました。
3. 震愕の稽古場エピソード:「すでに三役クラス」の証言

旭富士が「史上最強」と呼ばれる理由は、稽古場での常識外れな強さにあります。
- 関取衆を圧倒する「15勝3敗」: 研修生時代、すでに関取衆(十両以上の力士)を相手にした申し合いで、15勝3敗という驚異的な成績をマークしました。さらに恐るべきは、それだけ勝っても本人が「3つも負けてしまった」と真剣に悔しがっていたという貪欲な姿勢です。
- 「部屋で一番強い」: 伊勢ヶ濱部屋付きの間垣親方(元石浦)は、「(幕内優勝経験のある)尊富士や新小結の熱海富士ら、部屋の関取衆よりもすでに地力が上」と断言しています。
- 義ノ富士をも凌駕: 横綱から金星を挙げた義ノ富士と稽古場で互角かそれ以上の力を出していると言われており、周囲からは「すでに三役(小結・関脇)クラスの実力がある」と恐れられています。
4. 2代目「旭富士」襲名と、無敗の15連勝

2025年11月、照ノ富士の引退に伴いようやく合格した彼に、先代師匠は自身の現役名である「旭富士」を授けました。新弟子が前相撲から横綱の名を名乗るのは極めて異例ですが、これは「大関、横綱までいってほしい」という師匠の期待の現れです。
その期待に応え、彼は破竹の勢いで白星を重ねています。
- 2026年1月場所: 7戦全勝で序ノ口優勝。
- 2026年3月場所: 7戦全勝で序二段優勝。
- 2026年5月場所: 三段目に昇進し、初日に勝利。序ノ口デビューから本割で無傷の15連勝を達成しました。
5. 将来への展望:歴代最速スピード出世と「賜盃への距離」

専門家の間では、「関取(十両)までは無敗で行ける」との見立てが現実味を帯びています。元横綱・稀勢の里(二所ノ関親方)も「よく稽古している、均整の取れた肉体」と、その仕上がりを絶賛しています。
今後の注目点は、常幸龍が持つ序ノ口デビューからの27連勝という記録をいつ塗り替えるかです。さらに、今の勢いと実力があれば、「来年中(2027年)には幕内上位陣とともに賜盃(優勝)を争う存在になっている」という大胆な予測さえ飛び出しています。
高校から相撲を開始!異色の経歴と「旭」に込められた縁

オチルサイハンは、2018年にモンゴルから来日し、神奈川県小田原市の旭丘(あさひがおか)高校に相撲留学しました。
驚くべきことに、モンゴル時代にはボクシングやバスケットボールに取り組んでおり、本格的に相撲を始めたのはこの高校に入学してからでした。相撲部の2年先輩である十両・旭海雄(あさひかいゆう)は、当時の彼について**「(当初は)それほどではなかった。まだ相撲を始めたばかりだったから」**と振り返っています。
しかし、急速に才能を開花させ、高校2年生の時には世界ジュニア選手権の個人重量級で3位に輝きました。国内の主要なアマチュアタイトルこそ手にしていませんが、この国際舞台での実績が、後の「怪物」への第一歩となりました。現在の四股名「旭富士」の「旭」の字は、先代師匠の現役名であるとともに、母校・旭丘高校にも由来しています
おわりに
4年半の沈黙を経て土俵に現れたオチルサイハンこと旭富士。彼が対戦相手を寄り切った際、敗れた力士は「当たった後、さらに重くなった」とその底知れぬ圧力を語りました。
かつての横綱旭富士が「技のデパート」と呼ばれたように、この2代目もまた、その圧倒的なパワーと稽古で培った技術で、大相撲の新たな時代を築こうとしています。彼の連勝がどこまで続くのか、そしてどれほどの速さで頂点へ辿り着くのか。私たちは今、歴史が作られる瞬間に立ち会っています!